爽やかに俳句の神に愛されて

~田中裕明「夜の客人」より~発病41歳

木の瘤の腥くある時雨かな

マクベスの魔女は三人龍の玉

家々の切れてつづけり浮寝鳥

強き樹にならむとすらむ厄落

雛の間を覗けば人の寝てをりぬ

ブータンも田を植ゑる國うたの國

湖國とや墓を洗ふに水鳴らし

君が知る昭和若しや夏来る

おでんやの豆腐のうまき卯月かな

椎若葉をみなに鮨のあるごとし

空へゆく階段のなし稲の花

渇く日のつくづく冬の田を見たり

あらそはぬ種族ほろびぬ大枯野

月今宵いまも活字を拾ふ人

寝待月加茂川あさく流れけり

冬うららわが身すみずみまで疎し

法師蝉見知らぬ夜の客人と

みづうみのみなとのなつのみじかけれ

元町の地震の冬を思ひけり

吹降りの松のなかなる柳かな

我妻のつゆけくむかふ夜の机

寧日や寒の緋櫻うつむきて

退院す春の戦のをはりけり