アイヌの神謡

アイヌの世界で重要な動物は熊と鮭で、鹿も重要な食料となる動物です。アイヌの神話では、さまざまな動物の霊が大きな働きをしていて、動物の世界と人間の世界を自由に行き来しています。アイヌの人たちの言葉で、神はカムイと言いますが、そのカムイは最高のスプリットから小動物の体に住む小さなスプリットや竈の霊まで、まことに多様です。

フクロウの神は、フクロウの姿をした動物の毛皮の中に入ったり抜け出したりします。スプリットがフクロウのお面をつけて羽根のついた衣装を着ると、そのままフクロウになるのです。そして、この衣装を脱ぎ捨てると、姿形を持たない動物霊に戻っていくと考えています。ですから、アイヌの人たちは動物を捕まえて、殺して食べるとき、動物の霊を送り出す儀式をしました。亀や魚やあらゆる動物の送りをしますが、とりわけ有名なのが熊祭です。どこに送り返すかというと、もともとの動物霊の国へ送り返すのです。

動物霊の世界から人間の世界に向かって、気のいい霊が熊のお面を被り熊のコートを着て出てくる。人間はこれを射て、食べ物や毛皮にします。これを、アイヌは神様の世界が人間の世界に贈り物をしているというふうに理解しました。霊が熊のお面をつけて、肉と皮を人間の世界に背負って贈り届けてくれる。だから、この霊を神様の世界にちゃんと送り返してやらなきゃいけない。ちゃんと送り返さないと、もうこの次には贈ってくれないかもしれない。ですから、エゾの人たちもアイヌの人たちも送りということを非常に真剣にやったのでしょう。亀でも魚でも、どんな動物に対しても盛大な儀式をやりました。

アイヌの熊祭では、熊の皮と肉を背負って人間の世界にやって来た動物霊が、その皮を脱ぐための苦痛にみちた手続きが必要です。まず矢で射られなければなりません。その時、熊の霊は体が熱くなって気を失うのですが、少しして自分の霊が祭壇に祀ってある熊の頭骨の、耳と耳の間に座っているのにハッと気がつくと言われます。見るとお祭りがおこなわれていて、人間たちが自分のことをものすごくもてはやしてくれている。自分をほめそやしたり、お酒を振る舞ってくれたり、踊ってくれたり、儀式をしてくれたりする。「これはいい人たちだなあ。ひとつ神様の世界に戻ったら、人間というのはいい人たちだったと報告して、また次に肉と皮をお土産にして持って行こう。」という気になるように、そういう儀式をするのです。こういうふうにスピリット(意識)というものが動物、人間、神の世界を行ったり来たりするわけです。